先渡市場

目次

はじめに

先渡市場とは、一定期間にわたる電気をあらかじめ売買する市場であり、日本卸電力取引所(JEPX)の創設時から存在しています。

しかし、その取引は活性化しているとは言い難い状況が続いています。
この状況を改善するために、市場範囲を細分化するなどのテコ入れ策が講じられてきましたが、依然として低迷が続いており、その構造的な課題が注目されています。

先渡市場は小売事業者や発電事業者にとって重要な役割を果たす可能性を秘めています。本記事では、先渡市場の仕組みや課題、そしてその未来について考察します。


3年先までの電気を取引

先渡市場では、最大3年後の電気を受け渡す取引が可能です。取引は毎日、午前と午後に2時間ずつ開場されています。

以下のように商品が分類されています:

  • 年間商品:受渡期間が1年間の取引。⇒ 例:FY23、FY24、FY25
  • 月間商品:受渡期間が1か月の取引。平日昼間限定(昼間型)と24時間型があります。
    ⇒ 昼間限定 = ピーク、24時間型 = ベース 例:TBL(東京ベースロード)、TPK、KBL(関西ベースロード)、KPK
  • 週間商品:受渡期間が1週間の取引。こちらも昼間型と24時間型があります。
    ⇒ Wk1~36 のような商品体系。

取引方法にはザラバ方式入札者がいつでも入札ができる。価格と量が折り合ったものから順に約定する方式)が採用され、取引単位は1000kWです。


先渡市場の役割と意義

先渡市場は、以下の点で電力市場全体の安定化に貢献しています:

  • 価格変動リスクの軽減
    スポット市場の価格変動に左右されず、中長期的に安定した価格で電力を取引できます。
  • 計画的な電力調達
    小売事業者や大規模消費者が将来の需要に応じて計画的に電力を調達可能です。
  • 投資の活性化
    発電事業者が収益を安定させることで、新たな設備投資や再生可能エネルギーの導入が促進されます。

エリア間値差発生リスク

エリア間値差発生リスクの説明を行う前に、CFD取引の基本仕組みについて解説をします。
取引の流れとしては、契約価格の合意 スポット市場での現物供給 差金決済 の3STEPです。

スポット価格(円/kWh)<特定契約価格(円/kWh)の場合

スポット価格(円/kWh)よりも特定契約価格(円/kWh)が高い場合について、解説します。

① 事業者間で契約価格10円/kWhと設定する。
② 発電事業者は、スポット価格(8円/kWh )で電力を販売する。小売電気事業者は、スポット価格(8円/kWh)で電力を調達する。
③ 特定契約価格とスポット価格の差額を、決められたタイミングで決済を行う。今回の場合は、小売電気事業者が発電事業者に対して、2円/kWhを支払う。

 

特定契約価格(円/kWh)<スポット価格(円/kWh)の場合

特定契約価格(円/kWh)よりもスポット価格(円/kWh)が高い場合について、解説します。

① 事業者間で契約価格10円/kWhと設定する。
② 発電事業者は、スポット価格(12円/kWh)で電力を販売する。小売電気事業者は、スポット価格(12円/kWh)で電力を調達する。
③ 特定契約価格とスポット価格の差額を、決められたタイミングで決済を行う。今回の場合は、発電事業者が小売電気事業者に対して、2円/kWhを支払う。

 

エリア間値差がある場合

エリア間値差分がある場合について、解説します。

① 事業者間で契約価格10円/kWhと設定する。
② 発電事業者は、スポット価格(8円/kWh)で電力を販売する。小売電気事業者は、スポット価格(12円/kWh)で電力を調達する。
③ 特定契約価格とスポット価格の差額を、決められたタイミングで決済を行う。今回の場合は、発電事業者が小売電気事業者に対して、2円/kWhを支払い、小売電気事業者の負担は10円/kWhにバランスをする。
※発電電気事業者の実質販売価格は、6 円/kWh( = 8 円/kWh – 2 円/kWh )
上記のように、発電事業者のエリア価格(円/kWh)<特定契約価格(円/kWh)<小売電気事業者のエリア価格(円/kWh)の場合は、発電事業者がエリア間値差のリスクを背負うことになります。

 

ケース 発電事業者の収益 小売事業者のコスト
エリアA = 8円/kWh、エリアB = 12円/kWh 6,000円(6円/kWh) 10,000円(10円/kWh)
エリアA = 12円/kWh、エリアB = 8円/kWh 14,000円(14円/kWh) 10,000円(10円/kWh)

まとめ

先渡市場は、電力市場の安定性を支える重要な基盤ですが、取引量の低迷やエリア間値差のリスクといった課題を抱えています。市場範囲の分割や取引手数料の引き下げなどの方策が取られてきたものの、現時点ではその効果は限定的です。

今後、先渡市場が取引の活性化とリスク軽減に貢献するためには、技術革新や規制緩和、そして市場参加者の増加が重要となるでしょう。特に、再生可能エネルギーの導入が加速する中で、先渡市場は電力供給の安定化を担う一層重要な存在となることが期待されます。

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