はじめに
電力市場において、発電量と消費量を常に一致させる「同時同量」の原則は、電力の安定供給を実現するために欠かせない要素です。しかし、天候の変動や消費者の行動変化などで、電力の需給が計画通りに進まないことがあります。このズレを「インバランス」と呼び、これに対処するために「インバランス料金」が課されます。
インバランス料金は、計画と実際の電力需給に差が生じた場合、その差を埋めるために送配電事業者が負担したコストを小売事業者が支払う仕組みです。この制度は電力市場の安定性を確保し、需給バランスの維持を促す重要な役割を果たしています。本記事では、インバランス料金の基本的な仕組みから、制度の変遷や意図的なインバランス発生のケースについて解説します。
安定性と効率性の両立の肝
電力の安定供給を実現するため、同時同量の維持は極めて重要です。小売事業者は顧客の電力使用量を正確に予測することができず、計画値と実績値の乖離は不可避です。実績値が計画値を上回る場合、送配電事業者が不足分を補填し、小売事業者がインバランス料金としてその代金を支払います。逆に、実績値が計画値を下回る場合は、余剰電力を送配電事業者が買い取ります。
このインバランス料金制度は、電力市場の自由化とともに導入され、制度は何度も見直しが行われてきました。2016年の電力市場全面自由化により、インバランス料金は大手電力会社の※1発電原価に基づく固定価格から、日本卸電力取引所(JEPX)の※2市場価格に連動する仕組みへと移行しました。これにより、市場の価格変動が反映され、インバランスを発生させないよう事業者を誘導する効果が期待されました。
しかし、新制度導入後、インバランスの支払い価格がスポット市場価格を下回る状況が一部のエリアで恒常的に発生しました。この結果、一部の小売事業者は市場調達を避け、不足インバランスを意図的に発生させる行動を取るケースが出現しました。2019年4月の制度見直しでは、不足インバランス単価がスポット市場価格を上回るように設定され、事業者が市場調達を避ける動機が減少しました。しかし、この見直しが2021年度冬季の市場価格高騰を引き起こし、インバランス料金と市場価格のバランスが新たな課題となりました。
※1:電気を作るのにかかるの要する費用
※2:電気の市場価格に合わせて、価格設定を行う
参考サイト:TEPCO
インバランス料金制度の変遷
インバランス料金制度は、2000年に電力市場の部分自由化が開始されて以降、段階的に導入されました。最初の制度では、大手電力会社の発電コストに基づく固定価格が適用されていましたが、2016年の全面自由化に伴い、日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格に基づく料金制度へと変更されました。これにより、市場価格が反映され、電力の需給バランスの維持に向けたインセンティブが強化されました。
しかし、スポット市場価格がインバランス料金
を下回る現象が一部のエリアで常態化したため、2019年に再度制度が見直され、不足インバランスの料金が基本的にスポット市場価格を上回るように設定されました。これにより、事業者が意図的にインバランスを発生させるインセンティブが減少し、市場の安定性が向上しました。
参考サイト:インバランス料金情報公表
まとめ
インバランス料金は、電力市場の安定性と効率性を保つための重要な仕組みであり、需給バランスのズレに対処する役割を担っています。その制度は、電力市場の自由化とともに変遷を遂げ、2016年の全面自由化後は市場原理を反映した料金体系が導入されました。