電力市場の基本

目次

はじめに

電力は現代の社会インフラの基盤であり、家庭、企業、産業に欠かせないエネルギー資源です。かつては、地域ごとの電力会社が発電から販売まで一貫して管理していた時代もありましたが、技術の進歩や経済成長に伴い、電力市場の自由化が進展しました。この自由化により、電力は「商品」として市場で取引されるようになり、価格や供給が需要に応じて変動するようになりました。この記事では、電力市場がどのように構築され、どのように運営されているのかを解説します。


自由化

かつて電力は、地域ごとの独占事業として、発電から配電まで一つの企業が管理していました。しかし、1990年代以降、多くの国々で電力市場の自由化が進みました。これは、競争を促進し、電力供給の効率化とコスト削減を目指すための政策です。
日本でも、2016年に家庭向けの電力販売が完全自由化され、消費者は自分に合った電力プランを複数の小売事業者から選べるようになりました。

自由化により、電力市場は大きく分けて「発電」「送配電」「小売」の3つのセグメントに分かれました。これにより、発電を行う企業や電力を消費者に届ける企業、そしてその電力を販売する小売事業者が市場で競争する構図が生まれました。


市場の基本的な構造

電力市場は、旧一電気事業者、旧卸電気事業者、IPPなど、新電力などで構成されています。

1.旧一電気事業者(旧一般電気事業者)

旧一電気事業者とは、日本の電力自由化以前に、発電から送配電、小売までを一手に引き受けていた大手電力会社を指します。地域ごとに独占的に独占的に電力を供給していたため(地域電力会社)とも呼ばれます。

–以下、企業例
・東京電力(TEPCO)
・関西電力(KEPCO)
・中部電力

2.旧卸電気事業(卸電気事業者)

旧卸電気事業者とは、主に発電のみを行い、発電した電力を電力会社(旧一電気事業者)に販売する事業者を指します。

–以下、企業例
・電源開発(J-Power):
・日本原子力発電(JAPC):日本で最初の原子力発電を行った企業であり、発電した電力を大手電力会社に供給しています。

3.IPP(独立系発電事業者)

IPP(Independent Power Producer)は、電力の発電のみを行う事業者であり、送配電も持たず、独立して発電を行って電力市場電力会社に販売します。多くの場合、発電事業者に特化し、再生可能エネルギーやガス、火力発電など様々な電力源を活用しています。

–以下、企業例
・オリックス:太陽光やバイオマス発電などの再生可能エネルギーを中心とした発電事業を展開しています。
・エクソンモービル:ガス発電を中心にIPPとして発電事業を展開しています。
・日本風力開発:風力発電を専門に行う日本のIPPです。

4.新電力(PPS:特定規模電気事業者)

新電力とは、電力市場の自由化後に登場した電力小売事業者を指し、PPS(Power Producer and Supplier)とも呼ばれます。旧一電気事業者の送配電網を利用して電力を販売するため、自前の送配電網を持たず、電力市場で調達した電力を家庭や企業に供給します。

–以下、企業例
・ENEOS:
・ソフトバンク:ソフトバンクグループが提供する新電力で、携帯電話などのセットプランを通じて家庭向けに電力を販売しています。
・Loop:太陽光発電を活用した新電力事業者で、特に低コストの電力プランを提案しています。


電気の価値と取引される市場

電気の価値は、電力の利用目的や形態によってさまざまに分類され、それぞれに応じた市場で取引されています。具体的には、kWh(キロワットアワー)kW(キロワット)ΔkW非化石証書などの単位や形態で取引され、これらは用途や市場に応じて価格が決定されます。

以下、それぞれの価値と市場について詳しく説明します。

1. kWh(キロワットアワー)

kWhは、電力量を示す単位で、電気の消費量や発電量を表します。一般家庭や企業で利用される電力は通常、kWh単位で計測されます。消費者が電力会社から購入する電気料金は、このkWhを基に請求されます。

  • 取引される市場:kWhは主に小売電力市場で取引され、発電事業者が発電した電力を電力会社や新電力が購入し、それを家庭や企業に販売します。また、スポット市場先物市場でも取引され、需給バランスによって価格が変動します。

2. kW(キロワット)

kWは、瞬間的な電力供給量や消費量を表す単位で、電力の「出力」を示します。電力の供給においては、どれだけの電力を一瞬に供給できるかが重要であり、特に産業用や大型施設では、kWの最大需要(ピーク電力)が重視されます。需要のピーク時に安定的に供給できるかが、電力の価値に大きく影響します。

  • 取引される市場::kWは、大口の電力消費者向けの契約や電力調整市場で重要です。企業や工場が契約する際は、最大使用電力(kW)に基づいた料金設定が行われることが一般的です。

3. ΔkW(デルタキロワット)

ΔkWは、主に需要調整のための電力市場で用いられます。ΔkWとは、需要抑制や供給調整を行った際の電力の差分を指し、需要側の柔軟性や調整能力を活用する仕組みです。これにより、ピーク時の電力需要を抑えたり、発電所の負荷を軽減することが可能になります。

  • 取引される市場::ΔkWは、需給調整市場デマンドレスポンス市場で取引されます。電力会社は消費者に対して、需要を抑える(電力を削減する)ことで報酬を与える仕組みを用いており、これにより電力の安定供給が図られています。

4. 非化石証書(非化石価値取引市場)

非化石証書は、再生可能エネルギー原子力発電による非化石電力に付与される「非化石価値」を示す証書です。これにより、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーを利用した電力であることを証明することができます。カーボンニュートラルや環境負荷低減に貢献することが求められている現代において、非化石証書の価値は非常に高まっています。

  • 取引される市場:非化石証書は、非化石価値取引市場で取引され、特に企業が脱炭素やカーボンオフセットの目標を達成するために重要な役割を果たします。再生可能エネルギーを利用していることを示す証明書としても活用され、環境意識の高い企業が購入します。

まとめ

電力市場の自由化により、旧一電気事業者、旧卸電気事業者、IPP、新電力といったさまざまなプレーヤーが市場に存在するようになりました。旧一電気事業者は引き続き重要な役割を担っていますが、IPPや新電力の登場により競争が促進され、電力の選択肢が増えています。

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