はじめに
電力市場におけるスポット市場は、電力をリアルタイムで取引する市場で、需要と供給のバランスが反映される重要な場です。特に再生可能エネルギーの普及に伴い、電力の価格が変動しやすくなっているため、事業者にとってスポット市場の役割は一層重要になっています。しかし、電力会社がスポット市場に過度に依存すると、リスクが高まる可能性があり、適切なリスク管理が求められます。
高い依存は危険
スポット市場は、日本卸電力取引所(JEPX)で中心的な役割を果たしていますが、価格は需給バランスに敏感で、変動が激しいことが特徴です。たとえば、2020年度には夏の平均約定価格が5.9円/kWhと低水準だった一方、冬には寒波による需要急増で1月に24時間平均で100円/kWhを超える高値が続きました。このような急激な価格変動は、特にスポット市場に依存する事業者にとってリスクとなり、停電や電力不足の可能性も高まります。電力会社は、相対契約や長期契約を活用し、スポット市場への過度な依存を避けることが重要です。
スポット市場の仕組み
スポット市場では、電力をリアルタイムで取引するため、需要と供給が即座に反映されます。取引は通常、数時間から1日前に行われ、供給者が電力を提供し、需要者がその電力を購入します。
価格は、需要が高まると上昇し、供給が増えると下がる仕組みです。これにより、需要ピーク時には高値で取引が行われ、逆に需要が低い時間帯には安価で電力を購入できるチャンスが生まれます。この市場は、効率的な電力の流通を促進し、コストの抑制を目指していますが、需要の急増や供給の不足があると価格の大幅な変動が起こります。
大手電力の自主的取り組み
大手電力会社は、スポット市場のリスク軽減に向けた取り組みを進めています。発電設備の維持、需要予測の精緻化、バックアップ体制の強化に加え、長期契約やデリバティブ取引を活用し、価格変動リスクを抑える方針です。
また、東日本大震災後は、大手電力会社(旧一電など)は自社の小売事業に支障が出ない範囲で限界費用ベースの最大売り入札を行い、マーケットメーカーとして取引量を拡大に貢献しました。市場価格の急騰時には、燃料不足時に限り機会費用を加味した価格設定が認められるようになりました。
支配的事業者による相場操縦行為
スポット市場の自由化が進む中、支配的な事業者による相場操縦行為のリスクが増大しています。大手電力会社や市場で支配力を持つ事業者が、需給バランスを意図的に操作することで、価格を不当に吊り上げる行為が懸念されています。
たとえば、発電事業者が発電コストを無視して供出を行わない場合、価格操作の疑いが生じます。通常、発電事業者にとっては、限界費用で供出するのが経済的に合理的ですが、こうした行動を取らない場合には価格吊り上げの意図があると判断されます。
まとめ
スポット市場は、電力取引の効率化と柔軟性を提供する重要な場であり、電力会社にとって有用なツールです。しかし、スポット市場への過度な依存はリスクを伴うため、大手電力会社はリスクヘッジの取り組みを進めています。また、支配的な事業者による相場操縦リスクにも注意が必要で、市場の公正性を維持するための規制強化が求められています。スポット市場の活用が進む中で、長期的には持続可能なエネルギー供給のための制度設計やリスク管理が一層重要になるでしょう。