トレーディングと電力ビジネスの現場から

目次

はじめに

多くの実務家はこう考えます。

翌月末払いなら“2か月キャッシュを延命できる

でも、たまに言われます。

「いや、平均だと1.5か月だよ」

…何が違うのか?ここから読み解きます。


支払サイト = それは、生存戦略

商社:120日サイトという現実

取引の仲介を担う商社では、仕入先への支払条件が長期化するケースがあります。

例えば自動車業界では、完成車メーカー部品メーカーの取引に商社が介在すると、商社から部品メーカーへの支払が120日サイトの手形(約束手形)になる事例が報告されています。これは、直接取引なら現金払いされるところを商社経由で実質4ヶ月もの支払猶予を得ている状況です。

商社は手形割引やファクタリングを活用しつつ長期サイトで支払うため、自社のキャッシュアウトを大幅に遅らせることができます。一方で部品メーカー側資金繰りが逼迫しやすく、手形割引コスト負担や信用リスクを伴うため、近年は120日超のサイトは不適切とする是正の動きもあります。

電力取引(新電力)の事例

多くの新電力(小売電気事業者)は、日本卸電力取引所(JEPX)等で電力を調達し、調達代金は2営業日後に支払必要があります。

しかし、一般家庭や企業からの電気料金回収は電力供給日から約1~3ヶ月後となり、大きな資金ギャップつなぎ資金の不足)が生じます
※注意点:調達については連続調達をした場合を考慮しています。

この資金ギャップを埋めるために、新電力会社の中では、相対調達を実施する企業も出てきています。

通常、相対調達では供給月の翌月末払い。市場調達の場合は、調達から2営業日後に清算される仕組みです。両社のキャッシュ・アウトを比較すると、相対調達は市場調達に比べて、約1.5か月間(43.5日間)資金をプールすることができます。

つまり、言い換えるならばこの猶予の価値7830万円を借入するのと同等の効果ということです。
注意点:

ちなみに、仮に市場価格に対して+1円/kWh での調達を実施した場合は360万円のコストとなります。

その前提をもとに計算を行うと、利率は4.60%となります。


DCF・WACCの観点から

企業価値評価のDCF法資本コスト(WACC)計算では、キャッシュの出入りが期間内で均等に発生するとみなすことが多く、この場合期間の中間点(Half Period)で平均的に資金が拘束されると考えます。

DCF法:キャッシュアウト遅延効果

DCF法とは、本来企業価値を評価するための手法です。将来CF(キャッシュフロー)をWACC(割引率)で現在価値に割り戻す手法です。

今回は、相対調達と市場調達による効果をDCF法によって評価をしたいと思います。

相対調達と市場調達による、資金プールできる期間(t)を検討します。キャッシュ・フローについては今回15円の電力を5MW、720kWh分調達する想定のため5400万円としています。

その結果、市場調達の代わりに相対調達を行うと単月約31万円のキャッシュアウト削減効果があることがわかります。

WACC:借入回避の評価

WACCとは、企業が必要なコストを負債と株主資本コストの構成から企業固有の資金調達コストを算出する手法です。

上記の通り、市場調達(調達の2日後に清算)の代わりに相対調達を実施した場合、43.5日間資金が手元に残ります。金額に換算すると約7830万円。こちらにWACC(資本コスト)を掛けることで利子負担を節約するのと同じ効果があるというわけです。


金利上昇局面の支払サイトの使い方

運転資金戦略

金利上昇局面においては、運転資金の「資本コスト」が上昇します。つまり、WACC加重平均コスト)が上昇し、企業は1円あたりの調達コストが増加します。

例えば、以下のような条件の企業が実在すると仮定します。

現状のWACC(外部資金調達コスト)は、5.08%です。

しかしながら、金利の上昇にともない負債コスト rD、株主コスト rE が上昇したと仮定した場合は、

借入金利(短期 rD:1% (負債コスト) ➡ 4%
株主資本コスト rE :8% ➡ 10%
・有利子負債比率   :40%
・ 自己資本比率   :60%
・   法人税率   :30%

WACC(外部資金調達コスト)は、7.12%となり5.08%から2.04%の上昇となります。

金利上昇局面においては、企業内務で資金を捻出する価値が相対的に上昇します。

取引先が潰れたら本末転倒

支払サイト延長は、買い手企業にとっては極めて強力な運転資金戦略です。
しかし一方で、サプライヤー側(取引先)の財務負担は確実に増大する点を忘れてはいけません。

金利上昇局面では特に、その負担が表面化しやすくなります。

資金調達コストの上昇

買い手が支払を遅らせた分、サプライヤーは銀行借入や当座貸越でつなぎ資金調達する必要があります。

しかし金利上昇局面では、その借入コスト負債コスト rd)が急激に上昇します。結果、金利上昇局面では調達先についても注意する必要があります。

倒産リスクの加速

特に小売・電力・製造のように仕入比率が高い業界では、1社の倒産がサプライチェーン全体のリスクとなりえます。

欧米企業などでは、サプライチェーンファイナンスなどの導入がされています。


まとめ

トレーディングと電力ビジネスの現場では、支払サイトによって運転資金戦略を構築することがあります。一方でリスクが偏るため、最適なFeeレートや支払サイトを選択するには十分な検討を行ったうえで判断を行う必要があります。

参考文献:各制度資料・ニュースリリースより

 

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